ストリーミング再生

第一章
-再会と目覚めと-



 ロック・ヴォルナットがセラの戦闘端末を破壊して間もなく、ヘブンに眠る"とある命令"が実行された。

◇  ◇  ◇

今朝の新聞の見出しは、「リーバードの活動再開?!」で、先週の新聞は、「リーバード機能停止!?」と書かれていた。
「異変かのぅ。データや」
「おはようハカセ。…今はボクにもわからない」
 ロケットの開発も架橋に入り、ロール達は開発室で寝ているだろう。
「そうか…」
「きっと大丈夫だよ、ハカセ。今はセラ様もユーナ様もいるんだし」
 ウキキッ!と言ってリビングを出て行く。
「ワシももう年じゃのう。早く心配事が無くなればよいんじゃが…」
 新聞を折りたたみ、コーヒーを口にする。
 ロケットの方は最終段階に入り、昨日の最後の実験で宇宙に飛びたてていた。我ながら自慢の孫だとバレル・キャスケットは久しぶりに朝食を作り始める。
「ワシがエプロンをつけるのは何年ぶりかのう」
 彼は穏やかな顔をしていた。

◇  ◇  ◇


「地上で7日経過した」
 セラさんはボクの質問にそう答えた。
 アレから朝も昼も夜もない時が経って、時間感覚を失いかけている。ここでの時間というものはほぼ存在しないようなもの。
 ヘブンは機能を停止したため、動かせる機能だけ起動させてあるくらいでなんとかセラさんとユーナさんの端末を修理した。セラさんの端末は完全に壊れてしまったため、かなり時間が掛かった。と思う。
「以前のようには、闘い辛いな」
 とセラさんは言っていた。
「ねぇートリッガー迎えはまだぁ?」
 ロールちゃんのお母さん、マチルダさんの姿のユーナさんが退屈そうな声を上げる。何故端末を直してもなおこの姿なのかというと、
『ここで目覚めるといろいろと大変でしょ?それに最初はあの子に会わせて上げたいじゃない?』
 と笑顔で言った。
「ロールちゃんはきっちりする子だから…もう少しですよ」
「そうだぞ、ユーナ。少し前に地上から…軌道はズレていたが、こちらに何か向かってきていた」
「ほんと?!セラちゃん」
「本当ですか?!」
 モニターを映し出すと、地上から確かに何かが飛んできているのが分かる。
「遺跡からの物でもないし、おそらくそうだろう」
 そうか、なら「もうすぐだな」と思った。
 そしてそれは暗くて星の輝く宇宙に、人類の第一歩が目前に迫っていることと同じだった。

◇  ◇  ◇


 ティーゼルは悩んでいた。
「はぁ…」
「バブゥ…?」
「ボン…おめぇはどうしたい?」
 テントで作った反省会室でお茶をすする。今のところ彼らの仕事、と言えば資金調達(ディグアウト)。
 ティーゼルは流石に不安を覚えるようになってきた。大儲けしようと企み、挑んできたがことごとく断念。カトルオックス島や、大いなる遺産、どちらも失敗に終わっている。現在行っているロケット開発のための資金調達もボンとティーゼルで遺跡に潜って稼いできていた。
「バブバァブ…バブバブゥ?」
「いっそ、ディグアウター一家としてやっていたほうがいいかって?」
 ボンはいつのまにやらそう思えてきた。
「バッカ!オメェ…ボーン一家は空賊だぞ!?…だがなぁ」
実際に回収率は高いのは事実だった。
「悪くはないんだ悪くは…はぁ」
 今日もため息が漏れる。
「そういや、昨日のリーバードはやっかいだな」
 ティーゼルは昨日の戦闘を思い出す。ティーゼル達は運悪くリーバードの復活に居合わせてしまった。
「バブゥ…」
 サイズ的には中型のリーバードであったが、エネルギー系の攻撃が一切効かず全て無理やりの物理攻撃でなんとか倒すことができた。
「ボンがいなけりゃマジでやばかったなありゃ…ホントどうなるんだよ」
 不安がまとわりつく日々―

◇  ◇  ◇


二人は気づいていなかった。ロック・ヴォルナットという青年を迎えに行くために今日この瞬間までがんばってきた。その想いはもう宇宙すら越えている事に―

「いよいよ明日ね」

 トロンは思い出していた。
データが地上に戻ってきた時に「終わったよ。ロックは無事だよ」という言葉を耳にしたとき、本当は素直によかったと口にしたかった。でも私がそう思っていた瞬間、ロールは「あぁ…よかった」と涙を溜め声を漏らした。
私もあんなに素直になれたらいいのにと思ったのもつかの間、彼女は―
「迎えに行かなくちゃ」
と力強く言った。その時無意識に私は、
「私も手伝う―」
 と力強く、彼女と同じ位置に立つように。

「うん」

 ロールは思い出していた。
 データが地上に戻ってきたときの言葉。
「あぁ…よかった」
宇宙に飛び立った大切な人、私の大切な家族。何があっても諦めない人。私を支えてくれる人。時には不安にさせる人。だけど絶対笑顔にさせてくれる人。
 まだ生きているのだと。
 私はあの時、心で安堵をかみ締めた。それと同時に、
「迎えに行かなくちゃ」
 きっと待ってる。そう確信した。

 二人は完成したロケットを見上げ、同じ想いを口にした
「迎えに行くからもう少し待っててね、ロック!」

◇  ◇  ◇


『(COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE, COMPLETE,…………ERROR,ERROR……Background Start.)』

『(Check Start…)』

『(Heaven now carrying out an automatic restoration…)』

『(Alert.Confirmed disappearance of Mother 0 "SERA", Mother 1 "YUNA")』

『(A decisive error occurred!Confirmed the death of a Master!)』

『(Mother 2 "" Recovery start…)』

◇  ◇  ◇


ロケットが青空を指していた。けれどもその行き先は青空を突き抜け星を跨ぎ、人類を超越した人類の世界。未開の領域。
 その人類を越える領域に挑む人々。
「じゃあ、行って来るね」
「じゃ、お兄様。あとの子たち、よろしくね」
「トロン様をまかせたぞー兄弟達!」「ワー!まかせろー!」「御土産わすれなるなよー!」
「あっちでは気を付けてな、ロール」
「ドロ゙ン゙〜〜〜」「バァァァブゥゥゥ〜〜〜」
 見送る人は多数で、乗り込むのは少女二人。
 カウントダウンが開始された。
「5」
 音を上げるエンジン。
「4」
 心拍数が跳ね上がり。
「3」
 誰もが息を呑む。
「2」
 そして想いが、
「1」
 この星を越える。
「発射!!」
 舞い上がる砂煙、地上を離れるロケットが高く、もっと高く上がる。誰もが、
「行け!飛べ!」とは叫ばず。

「がんばれ」
 と、二人を応援していた。

 ロケットが地上を離れて空を目指して行き、高く伸びた煙の先はもう見えなくなっていく。
 青い空はどこまでも続く―

◇  ◇  ◇


「カトルオックス島のみなさんこんにちは!今日は深刻化するリーバード活性化を追及すべく今、最も危険な遺跡の目の前にやってきました!ではまずここテュレース島のディグアウターのみなさまにインタビューをご覧いただきましょう」
『俺は本業は大遺跡の見回りしてんだけど、思い出しただけでもゾッとするぜ。一昨日リーバードのいない浅い層を見回ってたんだが、突然扉と言う扉からリーバード共が噴出す水のように出てきやがったんだ。もう俺はこれはヤバイ!と思って必死に逃げた…あれはもう…』
『自慢じゃないがオレ様、S級ライセンスもってるだけどよ…最近のリーバードは手応えありまくり。下級エネルギー系の武器が一切効果ねぇんだよ。まぁオレ様特注の"ギガレーザー"でリーバード共は退いたけどな!』
「はい。では次に市民のみなさなの貴重なインタビューをどうぞ」
『あたしゃね、大遺跡の前を通りかかっただけなんだけどさ!だけどアンタ!物凄い足音が入り口側まで聞こえてきたんだよぉ!もうそりゃ一体二体どころじゃないよ、軍隊だよ軍隊!わたしゃもう怖くて怖くて…』
「はい、ありがとうございました。そして特別ゲストとして、テュレース島のギルドマスターにおこしいただきました!」
「どうも、こんにちは」
「早速ご質問したいと思います。最近の異変についてどう思われますか?」
「はい。わがギルドでは既に調査を開始しています。現時点でわかっていることは、新たに一段階古い遺跡が出没していることです」
「一段階古いというと?」
「はい。居住区のようなものや、それに連なった施設が発見されたことです。外見をわかりやすく表現するなら、今までより更に機械的なっていると言う所でしょうか。今まで機能していなかった、つまり停止状態だった遺跡がなんらかの作用を受けて起動前状態まで移行したと考えております。リーバードの異変もおそらく関係しているでしょう」
「はい。みなさん遺跡には十分注意してください。ギルドマスターさんどうもありがとうございました。続いては―」

◇  ◇  ◇


『(修復コマンド完了。)』

『(マザー2 "■■■■■" 起動。起動を確認)』

『("古き神々の再起動"を実行。再起都市、水質観察施設、エネルギー蓄積施設、大気管理施設の起動。これにより連なる施設の起動を実行。)』

『(システム安定値に到達まで一部プログラムを停止。)』

『(ヘブンの管理の最上級優先度をマザー2とし、これ以降の命令をマザー2より仰ぐものとする。)』

『各施設のシステムが安定しだい、各調査データを送信。全リーバードに"保全モード"から"再建モード"へ移行。稼動できる全ての"エデン"シリーズを起動。後"生存者"を捜索』

『(了解。命令を実行。ヘブンのシステム30%を使用します。これにより一部の命令が一時中断されます)』

『…………………』

◇  ◇  ◇


 ヘブン地表―青い星をバックにロケットが止まっている。
「…どうやら無事みたいね」
「それじゃあボクは地表まで行ってきますね」
「気をつけてね〜トリッガ〜」
「待てトリッガーその必要は無い」
 セラさんはそう言うと目を瞑った。
「あぁ…ハハッ♪ラッキーね。ぴったり大型リフト内に納まってる」
 まるで子供がはしゃぐような笑顔になるユーナさん。
 するとモニターに映るロケットがゆっくりとヘブン内へと下がっていくのが見える。セラさんによると心拍数は高いが搭乗者二名の状態は正常らしい。
ヘブン大型シャトルベイ―
広い空間に少女二人が降り立った。この時、誰も気にも留めていなかったが人類の宇宙への第一歩となる。
「広い…わねぇ…」
「んー、やっぱり大型の船を収容する港、なのかな?」
「というか重力があるのねちゃんと」
 トロンは地面に足を軽く叩きつける。
「あるというより、重力を操作できるんじゃないかな。ホラ、降り立つ前はロケットを押し付けるようにしてたけど、途中引き付けられるようにして不時着したじゃない?」
「いわれてみれば…確かに」
 モニターに映されるそんな会話をしている少女二人。
「ははっ。二人らしいや」
ボクは笑みがこぼれた。
「さぁて、迎えに行きますか♪」
「…そうだな」
 元気そうなユーナさんに対してセラさんは少しだけ暗く感じる。やっぱりココを離れるのが心残りなのだろうか。そう思いながら少女二人の下へ三人は移動を始めた。

◇  ◇  ◇


『(リーバード"再建モード"への移行50%完了。)』

『(各"エデン"の起動を確認。起動不可"エデン"は以下となります)』

『(7,8,9)』

『("エデン"0の起動99%完了)』

『"エデン"0の起動が完了しだい稼動及び射出』

『(了解)』

『一等粛清官及び二等粛清官の凍結の解除』

『(確認。...警告!一等粛清官は全て起動不可及び破壊されています。二等粛清官の凍結を解除しますか?)』

『解除しなさい』

『(了解。凍結中の再起都市、水質観察施設、エネルギー蓄積施設、大気管理施設のロックマンシリーズの凍結を解除を実行。ヘブンのシステム70%を使用します。これにより一部の命令が一時中断されます)』

『マスター…ココにはもういないのですね?』

◇  ◇  ◇


薄暗いとも言えなくもない長い通路という空間。
ヘブンの修復が完全ではないため、物理的にボクたちは移動していた。一部を除いた機器やリーバードの活動する音すら聞こえなくて、周りに反響する足音だけが聞こえる。
だれも言葉を口にせず、歩きながら考えている。
これからのことを―
「着いたぞ」
 大型シャトルベイという名前に似つかわしい巨大な扉、いや、ゲート。
「さぁ、やっと再会できるわねトリッガー」
「えぇ」
 ゲートがゆっくりと開き始めた。
「え?」
 セラさんが小さな声を上げたが、扉の大きな音でかきけされる。
 広い空間。その空間の中に少しだけ不釣合いなロケットと、久しぶりに会う少女二人がいる。少女二人もこちらを認識し、駆け出す。ボクも駆け出した。
「ふたりとも―」
『"エデン"起動完了。警告!これより"エデン"0射出段階にはいります』
「何だとっ!!」
 声を上げたのはセラさんだった。
『付近の職員は速やかに退避せよ。繰り返す。速やかに退避せよ』
「セラちゃん?!」
「え?え?何?どうなるの!?」
「エデンって何なの?」
「ど、どうしてエデンが…!?」
『カウント…5…4…』
「答えなさい!」
『3…2…1…"エデン"0射出』
「う、上!」
 ボク達は開いたシャッターの向こう大型シャトルベイから見上げる宇宙に、巨大な施設が飛び立つのを見た。

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